No.033
和弓の材料としての竹(1)
2003/11
佐藤 仁彦

竹は昔から生活用品の材料として様々に加工されてきました。弓は木弓、丸木弓等の単材弓に始まり、平安、鎌倉期頃、複合弓である伏竹弓が現れ、三枚打弓、四方竹弓と進み、ついに弓胎弓(ひごゆみ)が作り出されました。それぞれの弓の構造については、その断面図を図1に示します。

図1 弓の断面図

図1により、歴史が進むにつれて材料として用いられる竹の割合が増えている事がわかります。やはり竹が弓の材料として優れていたからこの様に進化していったのでしょう。今回はその竹について調べてみました。

和弓に用いられるのは主にマダケ、モウソウチクです。外竹は上下に引っ張られるため、しなやかさを残すためにゆるく焦したマダケを、内竹は上下に圧縮されるため強く焦したマダケを用います。モウソウチクは硬いためにきつく焦して芯材(弓胎)として用います。後にも説明しますが、竹自体元々曲げに対し非常に強い構造をしており、それを焦すのはさらに強化される事を期待して行うのですが、順序として先ず竹の構造について説明致します。

「竹の構造」

竹の稈の構造ですが、ご存じの通り竹はパイプ状であり、曲げに対して非常に強い構造をしています。この場合の曲げの荷重方向は図2の様になります。

図2 竹稈の曲げイメージ

竹稈内部は節(節間盤)で複数の空間に仕切られています。その節近くの断面図を次に示します。

図3 竹稈の構造
志村史夫著「生物の超技術」講談社ブルーバックス及び、社団法人未踏科学技術協会、傾斜機能材料研究会編「傾斜機能材料」より

図3-Aは竹の節付近を縦に割った断面図を模写した物です。図の竹稈部を縦に走っている線は維管束鞘(いかんそくしょう)と言い、水分や養分を運ぶ維管束(道管、師管)を保護する物で細胞壁中に非常にセルロース分を多く含む細胞から形成されています。図3-Bは横に切った面の拡大図です。図から解る様に竹稈は基本組織(柔細胞)の中に黒丸で示される維管束(師管、道管)が散在する構造となっています。また、図3-Cは維管束付近を拡大した物ですが、道管、師管を保護するために維管束鞘が花びら状に存在している事が解ります。鉄筋コンクリートの構造に例えると維管束鞘は鉄筋であり、柔細胞はコンクリートと言う事になります。図より、表皮に向かうに従い維管束は細かくなり、密になる構造になっている事が解ります。この構造を繊維強化複合材料で設計した円管の構造と比較してみると次の様になります。

図4 繊維強化複合材料製の円管における最適設計と過剰設計
A-最適設計  B-過剰設計
志村史夫著「生物の超技術」講談社ブルーバックスより

繊維強化複合材料で曲げにも引っぱりにも強い中空の円管を作る場合、図4-Bの様に均一な密度で母相に繊維を配合しがちですが、円管を曲げる場合、円管各部にかかる負荷は外側に向かって大きくなるため、材料の強度も外側に向かって大きくなる構造、つまりは傾斜強度(構造)であることが望ましいのです。従って曲げに対し強い円管を作る場合、図4-Bは過剰設計であり、図4-Aの様な構造が理想的と言う事になります。図3と比較してみると竹の構造はまさに理想的な構造であり、最小材料、最大強度の絶妙の設計になっているのです。

以下次号に続く

参考文献
「生物の超技術」志村史夫著 講談社ブルーバックス1999年
「生物をまねた新素材」竹本喜一著 講談社ブルーバックス1995年
「竹の世界Pert1」 室井綽著 地人書館 1993年
「機能傾斜材料」社団法人未踏科学技術協会、傾斜機能材料研究会編
「細胞の分子生物学第三版」Bruce Alberts, Dennis Bray他著 Newton Press
「現代弓道講座4弓具施設編」宇野要三郎監修 雄山閣
弓道ガイドブックに戻る
小笠原弓道教室に戻る
弓道コラム(保管庫)
001 弓具を考える「巻藁」
002 職人の独り言(1)
003 温故知新「炭素繊維について」
004 弓と竹の話
005 夏のカケの手入れ方法
006 握り皮の話とフビライの妻の話
007 近代の系譜
008 テレビ放映
009 弦の話
010 直心館弓道場
011 2002年 新年のご挨拶
012 竹取りの感想・籐について
013 日本の弓
014 矢筈について
015 四半的弓道
016 七面鳥染め羽根について
017 竹切り後の作業工程について
018 小笠原流の弓(1)
019 小笠原流式竹矢の製作行程
020 弓道を始める年齢について
021 くすねの使い方
022 環境問題と弓具
023 2003年 新年のご挨拶
024 十年振り返って
025 京の旅と弓の詩
026 職人の独り言(2)
027 道具の手入れ方法
028 神田の話
029 弓書の限界について
030 神出鬼没・JAL機内誌
031 かけのできるまで(1)
032 かけのできるまで(2)
033 和弓の材料としての竹(1)
034 和弓の材料としての竹(2)
035 2004年 新年のご挨拶
036 袴の色々
037 ヤダケについて
038 北本市の桜
039 初心者の弓具の選び方
040 東京都インターハイ予選
041 暑中見舞い申し上げます
042 イーストン社・HOYT社工場見学
043 鷹狩り
044 埼玉まごころ国体にて
045 阿蘇の流鏑馬
046 2005年 新年のご挨拶
047 新文字入り弓巻
048 矯めなおしについて
049 新装開店致しました(1)
050 新装開店致しました(2)
051 2007年 新年のご挨拶
052 合串について