No.009
弦の話
2001/11
佐藤 仁彦

和弓の弦の原料として、昔から主に麻繊維が用いられてきました。麻は大麻の原料になることから、その栽培は法律により規制されているため希少なものになっています。また、麻弦は作業工程が多く、製造には非常に高度な技術が必要であるため高価であり、扱いにも気を使わなくてはなりません。現代では麻の代用品として、ケブラー繊維などの合成繊維も用いられるようになりました。これらの繊維は切れ難くスーパー繊維と呼ばれ、ロープなどはもちろん、防弾チョッキ、人工臓器、航空機、宇宙船の機体にも用いられています当店でもスーパー繊維を材料とした弓弦を扱っています。弦の銘柄と、用いられているスーパー繊維の物性を表にしてみました。

合成繊維弦の材料と、その物性値
材料名(メーカー)  強度(g/d)  弾性率(g/d)  破断伸率  銘柄
ケブラー(東レ、デュポン) 22 430 3.6  轟弦、千本弦、龍鳴弦
ベクトラン(クラレ) 25 840 3.7  鳳弦
テクノーラ(帝人) 28 590 4.4  直心弦、飛翔弦(※)
ザイロン(東洋紡) 42 2000 2.5  直心Ⅱ弦、弦音
※ 飛翔の材料はアラミドですが、テクノーラはアラミドに含まれます。

表に示す数値は弦その物の測定値ではなく、あくまでその材料の一般的な単繊維の物性値を示しています。同じ繊維でも弦師さんによって縒り方、バインドする接着剤が違うなど、銘柄によって製品の性質も違ってきます。強度は切れ難さを示し、数値が大きくなる程切れにくくなります。弾性率は伸び難さを示し、数値が大きくなるほど伸び難い(弾力がない)事を示しています。破断伸率は切れる限界の伸び率を示しています。弦を選ぶときの参考にしていただければ幸いです。

これらの強力なスーパー繊維で出来た弦にも弱点はあります。直射日光に長時間あたると切れやすくなってしまいます。また、麻弦と同様に弦を折ってしまったりすると切れやすくなります。せっかく用意した代え弦も保存状態によって、いざという時に頼りにならないものになってしまいます。代え弦を作ったら必ず弦巻に巻いて保存するようにして下さい。代え弦を作るとき、麻弦も合成繊維の弦も、弦輪の作り方、初期伸張によって長さが安定するのに時間が必要です。弓把を高めに弦を張り、張ったまま一晩放置し、中仕掛けを作ります。麻弦の場合はクスネをよく染み込ませ、それから中仕掛けを作るようにして下さい。

「切れ難い弦を」と言って値段の高い弦を買われるお客さんがよくいらっしゃいます。切れ難い弦が必ずしも良い弦であるとは言えません。切れ難い弦は竹弓、グラス弓にかかわらず、それだけ弓に負担がかかるということを知って下さい。竹弓の場合、弦が切れると弓が若返ると言われます。適当に切れる弦でなければ弓の裏反りがなくなって使えない弓になってしまいます。扱いが難しくてもやはり竹弓には麻弦を使用することをお勧めします。弦の太さによって、矢を射放す時の弦が返る速度が変わってきます。弱い弓に太い弦を使えば切れにくくなりますが、的付けを高くしなくてはなりません。やはり弱い弓には細目の弦が、強い弓には太目の弦が合っています。同じ号数の弦でも銘柄によって太さが違い、まるで違う性質のものになってきますのでご注意下さい。例えば、当店で扱っている弦で号数が付いている弦の太さを比較すると、2号弦で龍鳴弦1.70~1.80mm、飛翔弦1.60~1.65mm、弦音1.50~1.55mmとなっています。今の自分の状態にあった弦を選ぶことは非常に重要です。先ずは色々と試してみて、指導される先生とも相談するなどして、今の自分の状態にあった弦を選んで下さい。

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