No.003
温故知新「炭素繊維について」
2001/06
小山 雅司

人間と猿との違いの一つに、道具の使用があります。近年、猿に道具を使うことが確認されていますが、弓矢の様な高度な道具の使用は確認されていません。「弾」の字は弓が物を弾く性質を表し、弾性能は弓の最も重要なものなので、弾性の優劣は敏捷な獲物をしとめる条件として自然界での生存競争において大きな力となりました。弓の材料として優れた弾性を持つ素材は、弓作りにおいて競って探し求められ、強化する工夫は射手の技量と共に大きな課題でした。

アジアの一部では理想的な弾性素材として竹が使われ、日本ではその竹をさらに強化する「疑似炭化」の工夫が800年~1000年の昔から行われてきました。これは内竹、そして籤(ひご)を強く火入れした事です。これは卓越した経験と勘が要求されます。

科学技術の発達した今日、小山弓具はより理想的な弾性材料を研究しグラスファイバーに留まらず、更にカーボン繊維という天然素材に変わる物を追い続けてきました。

弓の材料を考えた場合、単なる弾性材料だけでは不十分です。脆弱でなく塑性変形が無く、剛直で強度、復元性に優れ、軽量で他材料との親和性が高いことが条件になっています。その条件を満足するのが炭素繊維でした。

炭素には四つの形態があります。

1:無定型炭素状態非結晶で多孔質、可燃性がある木炭
2:炭素繊維状態結晶が一次元的に長く繋がり、不燃性で丈夫カーボン繊維
3:黒鉛石墨状態結晶が二次元に広く繋がり不燃繊維で丈夫であるるつぼ
4:ダイアモンド結晶状態結晶が三次元的に堅く繋がり不燃性で丈夫であるダイアモンド

炭素は、原子が蜂の巣型の六角形をなし平らに繋がり、グラファイトと呼ばれるきわめて強固な構造を作ります。炭素原子が繊維状になった「炭素繊維」は小さい結晶が直線的に繋がっています。 炭素繊維を同一重量比で鉄、ケブラー繊維等の化学繊維と比較すると、強度、弾性において遙かに優れていることが分かっています。

また、ダイアモンドのように一つの結晶ではなく、複数の結晶同士で隙間があることが、軽量で他材料との親和性の高さを生み、これが接着性の強さになっています。それはジャンボジェット機の構造材としても使用され、広く実証されています。

一般に高弾性の材料は振動減衰が小さい性質があります。 これは弓においては、離れの後に弓の振動が長く残ることを意味します。しかし炭素繊維は結晶の間に入る樹脂などの効果で、振動減衰が高い(弓の振動が長く残らない)という非常に優れた性質を持つのです。 これら炭素繊維の性質を熟知し、内側と外側の二層構造で幅広に利用した「直心カーボン」や「カーボン竹弓・清芳」は、射手の角見の働きに応え、「速く伸びのある矢飛び」「冴えのある離れ」を生み出します。

以上のことから、炭素繊維は弓のために必要な条件を全て兼ね備えているのです。今のような科学技術の無い昔、天然素材から炭素繊維を作り利用してきた先人の知恵には、本当に畏敬の念を抱きます。

先代、小山茂治は「職人は、生涯修行」が口癖でした。 小山弓具は皆様のお叱りや助言を頂いて、「古きを尋ね、新しきを知る」を胸に、これからも伝統や工夫を大切に研鑽を積んでいきたいと思います。

塑性変形物体に作用する外力が除かれても物体に変形が残る特性を言う
るつぼ金属を入れて溶かす鍋の事
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002 職人の独り言(1)
003 温故知新「炭素繊維について」
004 弓と竹の話
005 夏のカケの手入れ方法
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008 テレビ放映
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031 かけのできるまで(1)
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033 和弓の材料としての竹(1)
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042 イーストン社・HOYT社工場見学
043 鷹狩り
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